005 かがやく拳と旅立ちのとき

投稿者:

我は旅立つために部屋にある唯一の扉の前に立つ。
扉を押してみるも開かない。

わかっているよ、押してもだめなら引いてみろってことだろ?
我は自信を持って扉を引いた。

開きません。

あれだな。ふすまのようにスライドさせるタイプなのだろう。

違いました。
左右に動かしてみようとするもぴくりともしない。

なんてこった! 
このままでは旅立てないぞ。

こういう扉を開けるためには、近くに何かあるはずだ。
定番は、ボタンか、レバーか、ヒモか、何かスイッチ的なモノがあるのではないかと思い、周囲を探す。

ふふ、我は自嘲気味に肩をすくめながら、現実を直視した。

うん、何もないね。

床にへたり込みながら、ドンドンと床を叩く。
ぐわぁぁあああああ! こんなところで旅立ちに躓くなんて!

{ログ:【悟りしモノ】の効果により、興奮状態が沈静化しました}

落ち着け、我。

あきらめるのはまだ早い。きれいに開けようとするからダメなのだ。
この部屋の床を見てみろ。

我が床を叩いたところは、ちょっとヒビが入っているし、顔からこけたところもちょっと破損している。
つまり、この部屋は壊せるって事だ。

しかたないね。今は緊急事態なのだ。待っていれば誰かが助けに来てくれるわけではない。
こういう緊急事態の時は、迷わず扉を蹴破ればいい。ちなみにこの部屋には窓はないので、蹴破る対象は扉だけだ。

ということで、扉を殴ってみる。

ドン! と、大きな音をたてるも扉はそのままだ。
頑丈だな。もう一回殴ろう。

ドゴン! と、先ほどより大きな音をたてたが扉に変化はない。
あきらめずに我はもう一度力を込めて扉を殴る。

ドゴン!! と先ほどよりさらに大きな音をたてたが扉に変化はない。
これはだめなのかと不安になる。

{ログ:ゴーレムは封印されし扉に28のダメージを与えた}

ん? いつもの声とイメージが頭に流れ込んできた。

28のダメージ?
ということは、しょぼいけどダメージは与えることができたってことだ。

ダメージを与えることが出来るなら、壊せるってことだろう。
おし、ならば、殴り続けるのみ!

ドゴン!!
{ログ:ゴーレムは封印されし扉に28のダメージを与えた}

ドゴン!!
{ログ:ゴーレムは封印されし扉に28のダメージを与えた}

ドゴン!!
{ログ:ゴーレムは封印されし扉に28のダメージを与えた}

・・・・・・10時間経過

ドゴン!!
{ログ:ゴーレムは封印されし扉に28のダメージを与えた}

ドゴン!!
{ログ:ゴーレムは封印されし扉に28のダメージを与えた}

ずっと殴っているのに、いっこうに扉を壊せない。
マジかよ。どんだけ頑丈なんだこの扉。ただし、我の体力もずっと減らない。
殴り続けているのに全く疲れない。すごいなこのメタルボディは!

扉よ! 根比べだ!
我は気合いを入れ直して、扉を殴り続ける。

ドゴン!!
{ログ:ゴーレムは封印されし扉に28のダメージを与えた}

ドゴン!!
{ログ:ゴーレムは封印されし扉に28のダメージを与えた}

殴ろうと振りかぶったところ、扉の様子が少しおかしい。
ちょっとキラキラし始めた。

おお、これは壊れる前兆なのではなかろうか!
このままいってしまおう!

ドゴン!!
{ログ:ゴーレムは封印されし扉に28のダメージを与えた}

ドゴン!!
{ログ:ゴーレムは封印されし扉に28のダメージを与えた}

ふふ、扉のキラキラが強くなった!
旅立ちの時は近い。

我の気持ちがまだ見ぬ外に向けられはじめた時、頭の中に声が響いた。

{ログ:日付が変わった為、封印されし扉は完全修復されました}

その声と同時に、扉のキラキラは収まった。

えっ!? マジか。

◇ ◇ ◇

なんてこった! 扉が完全修復された。
我の10時間以上に及ぶ攻撃のすべてが無駄になってしまった。

日付が変わると完全修復されるとは。
封印されし扉とか表示されているから、伊達に封印されてないってことだろうか。

ふふ、なかなかやるじゃないか、扉。
我の相手にとって不足はない!

疲れを知らない我はお前を殴り続けてやる!
絶対壊してみせるからな!

{ログ:【悟りしモノ】の効果により、興奮状態が沈静化しました}

まぁ、一発一発丁寧にいこうか。
我は気持ちを切り替えて扉を殴る。

ドゴン!!
{ログ:ゴーレムは封印されし扉に28のダメージを与えた}

ドゴン!!
{ログ:ゴーレムは封印されし扉に28のダメージを与えた}

ドゴン!!
{ログ:ゴーレムは封印されし扉に28のダメージを与えた}

・・・・・・10時間経過、我はひたすら扉を殴る。

ドゴン!!
{ログ:ゴーレムは封印されし扉に28のダメージを与えた}

ドゴン!!
{ログ:ゴーレムは封印されし扉に28のダメージを与えた}

ドゴン!!
{ログ:ゴーレムは封印されし扉に28のダメージを与えた}

・・・・・・さらに10時間経過、我はもくもくと扉を殴る。

ドゴン!!
{ログ:ゴーレムは封印されし扉に28のダメージを与えた}

ドゴン!!
{ログ:ゴーレムは封印されし扉に28のダメージを与えた}

むー、なかなか壊れない。
昨日の倍以上殴っているけど、壊れない。
なんかまた扉がキラキラし始めたぞ。これはやばい。
焦る心を抑えつつ、我は自分を励ます。

がんばれ、我の拳!

ドゴン!!
{ログ:ゴーレムは封印されし扉に28のダメージを与えた}

ドゴン!!
{ログ:ゴーレムは封印されし扉に28のダメージを与えた}

さらに扉のキラキラが強くなった時、声が響いた。

{ログ:日付が変わった為、封印されし扉は完全修復されました}

なんてこった!
丸一日殴り続けていたのに、壊せないだと!?
これでは我は外に出ることが出来ないじゃないか。
我は頭を抱えながら呆然と扉を見つめた。

{ログ:【悟りしモノ】の効果により、憂鬱状態が解消しました}

終わったことは、後悔しても仕方がない。
未来に繋がるように、反省せねば。

何が、悪いのか。我は自分の行動を振り返る。
振りかぶる、扉を殴る、振りかぶる、扉を殴る。

それしかしていない。殴り方か? 殴り方が悪いのか?
一定のリズムで殴っていたけど、我の振りかぶるという動作が大きくて無駄が大きいのかもしれない。

問題がある時は改善せねば。

おし、こんな時はワンツーだな。右、左、右、左とテンポ良く攻撃をしていけばいいのだ。

ドゴ、ドゴン!!
{ログ:ゴーレムは封印されし扉に56のダメージを与えた}

おし、我の思ったとおりダメージが2倍になった。
ふふ、できるじゃん、我。
さらに1発増やしてワンツー、ドンにしてやろう。

ドゴ、ドゴ、ドゴン!!
{ログ:ゴーレムは封印されし扉に84のダメージを与えた}

おし、3倍だ! ダメージ3倍!
これなら勝てる! 我なら扉を壊せるぞ! 自分を励ましながら、我は扉の破壊に全力を傾ける。

ドゴ、ドゴ、ドゴン!!
{ログ:ゴーレムは封印されし扉に84のダメージを与えた}

ドゴ、ドゴ、ドゴン!!
{ログ:ゴーレムは封印されし扉に84のダメージを与えた}

ドゴ、ドゴ、ドゴン!!
{ログ:ゴーレムは封印されし扉に84のダメージを与えた}

・・・・・・10時間経過。だが、扉に変化はない。
お、おかしいな。いや、疑問を持つな。今は、考えるときではない。殴るときなのだ。

ドゴ、ドゴ、ドゴン!!
{ログ:ゴーレムは封印されし扉に84のダメージを与えた}

ドゴ、ドゴ、ドゴン!!
{ログ:ゴーレムは封印されし扉に84のダメージを与えた}

ドゴ、ドゴ、ドゴン!!
{ログ:ゴーレムは封印されし扉に84のダメージを与えた}

・・・・・・さらに10時間経過。あれ、これは昨日と同じパターンでは。
マジか!? 昨日の3倍以上殴っているけど、壊れないなんて、マジか!?

やばい、なんかまた扉がキラキラし始めた。
これはやばい。がんばれ、我の拳!
燃えろ、我の拳! 諦めるんじゃない!
努力は自分を裏切らないんだ!

{称号【諦めぬモノ】を得ました}
{称号【諦めぬモノ】を得たことにより、スキル【悪あがき】を得ました}

こんな時でも、声とイメージが頭に流れ込んでくる。
我は扉を殴りながらも、【悪あがき】ってなんじゃそりゃと疑問に思う。
それと同時に、なぜか両手の拳に光が集まり始めた。

えっ、なに、これ?
燃える拳ではないけど、光る拳だ。
かっこいい。マジかっこいい!

我は今輝いている!
比喩ではなく、本当に拳が光って輝いている。

拳の光がさらに強くなる。
おし、このまま、我の思いをのせて扉にたたきつけてやる!

オオォオオオオオオオ、と叫び声を上げているつもりになりながら、我は光る拳を扉にたたきつけた。

ドガン、ドガン、ドッガーン!!

{ログ:ゴーレムは封印されし扉に84000のダメージを与えた}
{ログ:封印されし扉は木っ端みじんになった}
{ログ:ゴーレムはLv9に上がった}

やった! 我はやったよ!

◇ ◇ ◇

木っ端みじんになった扉を前に、我は喜びのあまり、転げ回る。
ふふ、壊せた、壊せたよ!

{ログ:【悟りしモノ】の効果により、興奮状態が沈静化しました}

ちょっと待てよ。

84000のダメージって、いいのか?
ダメージの桁が一気に変わったよ?
計算方法とか大丈夫なのか、すごく心配になる。ひょっとして適当か?

{ログ:【悟りしモノ】の効果により、不安状態が解消しました}

まただ。頭に響くこの声はなんなんだ。
この声とか、ログとか、急に頭に流れ込んでくるから、正直オフにして欲しい。

{運命の選択:世界の声をオフにしますか? オフにした場合、2度と世界の声は届きません}

おっ、なぜか、選択を迫られた。
だが2度とこの声、世界の声というのを聞けないのは困る!
今の我にとっては、この世界で唯一の情報源だし、聞こえなくなったら聞こえなくなったで寂しい。

なのでオンのままでお願いします!
オフにしてほしいなんて思ってすみませんでした。
お友達になってください!

我は何もない空間に向かって頭を下げながら、握手をするように右手を前に突き出した。

{結果:世界の声はオンの状態で固定されます。親睦度が5上がりました}

なんと、親睦度なんてものがあるのか。

{ログ:世界の声の状態変更が不可能になりました}
{称号【声のトモダチ】を得ました}
{称号【声のトモダチ】を得たことにより、スキル【通訳】を得ました}

そして新しい称号を得た。【声のトモダチ】だ。
ふふ、我は声と友達になれたらしい。
これで我はぼっちじゃなくなった。

レベルも上がったことだしステータスを見てみよう。
なんせ一気にレベルが9に上がったからな、何かしら変化があるはずだ。
ステータスがどのくらい上がっているのだろう。楽しみだ。

ステータス!

ーー
名前 ゴーレム
種族 メタルゴーレム
レベル 9 
ステータス 
最大HP:578
最大MP:551
攻撃力:255(+0)
防御力:255(+0)
素早さ:213
頭 脳:209
運  :255

スキル
【ステータス固定】
【復元】
【覚醒】
【悪あがき】
【通訳】
称号
【変わらぬモノ】
【悟りしモノ】
【諦めぬモノ】
【声のトモダチ】
ーー

ん?
我は表示されたステータスをじっくりと確認する。

あれ、マジか。スキルと称号が増えているだけだ。
ステータスのパラメータには変化がない。

ゴーレムだからステータスってあがらないのか。
いや、某ゲームではゴーレムだってレベルアップと同時にステータスは上がっていた。

これはやはり【ステータス固定】のせいなのではなかろうか。
残念な結果だ。これは非常に残念な結果だ・・・・・・。

{ログ:【悟りしモノ】の効果により、がっかり状態が解消しました}

声の説明がちょっとフレンドリーになった気がする。
なんてったってトモダチだからね。ふふふ。

ステータスが変わらないなら変わらないでいいさ。どうにもできないことを考えても仕方ない。人間前向きに生きないとね。あっ、人間じゃなくてゴーレムか。

【通訳】のスキルが手に入ったので、旅立つ前に本を読んでみることにしよう。
なんて書いてあるんだろう。この世界の情報がちょっとでも手に入るとうれしいのだけど。

パラパラパラと本をめくってみる。
何もわからない。さっきと同じだ。

ひょっとして【通訳】だからか。
翻訳じゃないから文字は読めない?
何それがっかり。がっかりだよ。

{ログ:【悟りしモノ】の効果により、がっかり状態が解消しました}

意思疎通のとれる相手じゃないと【通訳】は効果がない可能性が高いね。
おし、気を取り直して出発しようじゃないか。

ようやく部屋を出ることができる。出た先も小さな部屋になっている。
その中央には魔法陣が刻まれた立方体の大きな石があった。

黒くてちょっときれい。黒曜石ってやつかもしれない。
そっと触れてみると立方体の大きな石に刻まれた魔法陣が輝き出し、光に包まれた。

あっ、これって、ダメなパター・・・・・・

{ログ:転移石は登録者以外の魔力を感知しました。転移石の周囲に存在する者はランダムに転移させられました}

<前へ 目次  次へ>