040 追跡

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我はゴーレムなり。

さて、お嬢様達は転送され、バカップルも裏庭を去って行った。一人取り残された我。あれ? お嬢様達と一緒にどこかに飛んでいった方が面白かったのかもしれない。

ひょっとして、我ってばルートをミスってしまったのだろうか。
いやいやいや、そんなことはない。何とかなる!

我はお嬢様達が消えた場所に来る。もう一度、魔法陣とか発動しちゃったりしないかなと淡い期待を抱いていたが、発動しなかった。発動するのが、お約束なのに。この世界では、お約束はないらしい。

さてどうしようか。我は地面に散らばった砕けた水晶球を見つめながら途方に暮れるのであった。

我は水晶玉のかけらをせっせと拾い集めた。かなり細かく砕け散っていた水晶玉。拾い集めている内に夜になってしまった。ようやく拾い集めた水晶玉の破片をおにぎりのようにぎゅっぎゅっと握りしめる。そうすると、我の手の中で再び、あまりよろしくない雰囲気を醸し出す水晶玉が復元されたのだった。

ふっふっふ。我のスキルを忘れるべからず。

【復元】、【復元】を持っているのですよ! 我は。ここはバカップルの観察を続けるよりも、お嬢様達の世界の果てでの行動を追うべきだと思うのだ。なんと言っても1年ほど共に学んだ仲だ。クラスメートだ。あくまでも我の一方的な自称クラスメートだけど、放っておくほど我も不人情ではない。必ず同じ場所に飛べる保証はないけれどやってみよう。

我は水晶玉を自分の足下へと投げつける。我の足下に魔法陣が広がった。キュイーンと魔法陣が光輝き、我は転送されていくのだった。

我は転送されて、世界の果てへやってきた。多分。

世界の果てとか言っていたけど、どうなんだろう。周りをぐるりと見回しても、深い森であるということしか我にはわからない。

お嬢様や2人のメイドの姿は近くにない。やはり、水晶をコツコツ拾い集めるのに時間がかかったからかな。もしくは、全く関係のないところに飛んでしまったからであろう。なんとも困ったものだ。感知系のスキルが欲しい。

夜だからお嬢様達は火でも焚いて、休んでいるのではないかなと考え、近くにあった大きめの木に登り、あたりを探してみる。でも、たき火の光は見えない。遠くの方に雲に届くほどの山が見えた。それ以外に見えるものはすべて森であった。

さてさて、どうしたものか。お、こんな森でも、いや、こんな森だからこそ、精霊をちらほら見かけるね。我は、精霊に近づき、ジェスチャーでお嬢様達を見なかったか尋ねてみる。うーん、うーんと精霊は悩む。精霊が我のジェスチャーを理解するのに時間がかかってしまった。しばらく同じ事を繰り返すと、やっと精霊に我の言いたいことが伝わった。

こっち、こっちという風に精霊が我を案内してくれる。おぉ、お嬢様を見ていたか。我はお嬢様と同じような地点に飛ばされていたのだな。ふっふっふ、賭は我の勝ちのようだ。

ふわふわと進む精霊。その後をてくてくとついていく我。たまに、ちょっと強そうな魔物が襲ってくる。蛇とか、猿とかが、我にじゃれついてくる。やれやれ、おぬし達の相手をしている暇は今ないのだよ。我はパシと軽く叩いて追い払う。

精霊がもうすぐもうすぐと我の周りをふわふわと飛び回る。我はゴーレムアイで周囲をサーチする。

{ログ:ゴーレムアイというスキルはありません}

我の耳に、「きゃ、お嬢様」という声が聞こえてきた。おお、これはメイドの声ではないか。ふっふっふ、我がゴーレムイヤーはどんな小さな声も拾うのだ。

{ログ:ゴーレムイヤーというスキルはありません}

我は声が聞こえた方向へと駆けだした。

お嬢様とメイド達は猿の群れに囲まれていた。さすがはお嬢様、魔法だけでかなり善戦している。だけど、多勢に無勢。お嬢様の実力では、この数の前には分が悪そうだ。我くらいの実力がないと、ソロプレイはできないからな! 我とお嬢様ではソリストとしてのレベルが違うのだ!

おっと、そんな事を考えている間に、猿たちの包囲網が狭まっていくではないか!? このままではピンチにかっこよく現れる前に、お嬢様達がやられてしまう!

我はすかさずラインライトを発動させ、すべての猿の眉間を撃ち抜いた。チュインという音と共に、ばたばたと倒れる猿たち。お嬢様達は目の前の光景に呆然としている。

ふっふっふ、我もこの1年間遊んでいただけではないのだよ。ラインライトの練習は常にしていたのだ。そのために学園には新しい怪談を一つ誕生させてしまったが、学生達にとってはいい思い出になるだろう。

{ログ:ゴーレムはダークネスモンキー達に平均200のダメージを与えた}
{ログ:ダークネスモンキー達は息絶えた}

久しぶりに聞いたな、このログ。危うくこういうログが聞こえてくることを忘れるところであった。

おっと、いけないいけない。こういうのは間を大事にしなければ。我はお嬢様達の前にかっこよくザッと登場する。お嬢様は、「あ、あなたは!?」と驚いてくれる。だけど、メイド達は無反応だ。

な、なぜだ!?
我の登場の仕方がまずかったのだろうか。まるで見えていないようではないか。

はっ!?

【姿隠し】を使ったままだ。この1年の間、常時発動させていたからオフにするのを忘れていた。しまった。あわてるな、あせるな。まだだ、まだ、大丈夫だ。我は木の陰へと姿を隠す。お嬢様は、なにしてるのコイツみたいな目で我を見てくる。

フー、フー、深呼吸だ。こんな時は深呼吸だ。我は呼吸はできないけど、雰囲気を大切にしたい。【姿隠し】をオフに切り替える。では、行こう!

我はお嬢様達の前に再び、かっこよくザッと登場する。お嬢様の視線は冷たい。でも、メイド達は、「えっ!?」「銀色の人形?」と我の登場に驚いてくれている!

我はうむと一人頷く。そして、おぬし達を助けに来たのだとジェスチャーで伝える。でも、お嬢様やメイドにはあんまり伝わっていない。あっ、ちょうどいいところに蛇がやってきた。

お嬢様やメイド達は、「くっ」や「また」って言いながらちょっと後ずさっている。我はそんな3人の前に進み、わかりやすいように人差し指を立てて、ラインライトを発生させ、蛇へと向けて撃ち出した。

チュインという音と共に、蛇は眉間を撃ち抜かれ、息絶える。

{ログ:ゴーレムはブラックコブラに200のダメージを与えた}
{ログ:ブラックコブラは息絶えた}

その姿を目にして、ようやくお嬢様とメイド達は、先ほどの猿達も我が倒したのだと理解してくれるのであった。お嬢様とメイド達が我にお礼を言ってくる。

「ありがとうございました、銀色のゴーレム。おかげで助かりました」
「ありがとうございました。ゴーレムさん」
「ゴーレムさんは強いんですね!」

我は、べつにたいしたことじゃないさ、気にするなと、ジェスチャーで答える。今の我ってば、実にかっこいいのではないだろうか。お嬢様の視線はあいかわらずちょっと冷たい。あれか? もしかして学園での我の態度が問題だったのだろうか。でも、メイド達の視線はキラキラと輝いている。

ふっふっふ。そうであろう、そうであろう。ピンチに颯爽と登場した我はかっこよいであろう。お嬢様も素直になればいいものを。

そして、我はこれからどうするのってジェスチャーで聞いてみるが伝わらない。うむ、言葉を話せないのはやはり不便だな。猿達や蛇の亡骸から離れた所で、とりあえず夜も遅いので3人には寝るようにジェスチャーで伝える。さすがに疲れていたのだろう、3人はあっという間に眠りに落ちた。そんな横で我は一人寝ずの番をがんばるのであった。

たまに近寄ってくる蛇や猿はパシッと叩いて、どっか行けと追い払う。

我は実に有能な護衛役だ。『我はお嬢様のガーディアン。その名はゴーレム』と一人でポーズの練習をする。指先にまで意識を集中させてポージングをしているから、見た目以上に難しい。だが、1人でも多くの人にかっこよさを伝えるためには手を抜いたらいけないのだ。我の後ろの地面にはラインライトを配置して、バックライトにすることも忘れない。

ちょっと視線を感じたので、あたりを見回した。お嬢様がちょっと眩しいのだけどみたいな感じで我を見ている。お嬢様は不眠症気味なのかもしれないな。我はそっとラインライトを消し、地面に座る。それを確認したお嬢様は再び眠りについた。

我とは違ってお嬢様達は食事もしないといけないし、これからどうしたものだろう。

とりあえず、我はじっと夜が明けるのを待つのだった。

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