049 星金貨

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我はゴーレムなり。

初めての迷宮探索で星金貨と呼ばれる硬貨を21枚手に入れることができた。

仮にこの硬貨1枚で日本円にして1,000円程度の価値があったとしたら、21,000円だ。100円程度の価値だったならば、2,100円だ。もしも、10,000円ほどの価値があろうものなら、210,000円ものお金をゲットしてしまったことになる!

我にはこれがどの程度の金額なのかわからないが、一つだけ言えることがある。

最低でも2100円ほどの価値があれば、ブラシは買えちゃうぜ! ついでについでに、タオルだって買えてしまうかもしれない!

これはもう買いに行くしかあるまい、マイブラシを!
我はないわーポーチを押しつけられたあの雑貨屋を目指し、街の中を歩いて行く。

「ね、ねぇ、あれって」
「ああ、ゴーレムみたいだな」
「でも、あれは大丈夫なの」
「たしかに身につけていないな」

くっ、我は街の中を歩くだけでこれか。これもすべてないわーポーチの呪いか。なんと恐ろしいアイテムなんだろう。でも、星金貨とかを入れるのに役には立っているのだ。前向きに考えるのだ! 我はこれに助けられている。我はこれのおかげで星金貨を握りしめなくてもよい。柄がひどいだけなのだ。それさえなければ、普通のカバンなのだ。

我は雑貨屋へと入っていく。以前、チェックしていたブラシコーナーに行く。トイレブラシはダメだ。それ以外を選ぼう。うーん、この白いのとかどうだろう。これならば、どれだけ汚れていたか一目でわかる。

背中へとブラシをまわしてみると、おお、ちゃんと背中に届く。かゆいところはないけど、かゆいところにも届きそうではないか。ふむ、これでいい。いや、これがいい。これからよろしく頼むぞ、マイブラシ1号、ホワイティアよ!

我は一人納得して、ブラシを持ってカウンターへといく。カウンターには前と同じように、お手伝い少女Aが座っていた。少女が我を見て「あっ」と声をあげる。でも以前の事があるから、驚かれない。ふっふっふ、なじみの客になってしまったようだな。常連さんだ。

我はカウンターの上に、ホワイティアをのせる。そして、ないわーポーチから、星金貨を取り出そうとごそごそすると、「えっ、それまだ使ってるの?」とつぶやき、少女が信じられないものを見たといった表情をしているではないか!!

星金貨を取り出そうとした手が思わず止まってしまう。わ、我だって、我だって、外せるものなら外したい! でも、呪いで外れないんだよ!! 外を歩くだけで、我の株がだだ下がりで、風評被害で我へのダメージは計り知れないんだよ!!!

{ログ:【悟りしモノ】の効果により、興奮状態が沈静化しました}

落ちつけ、これは普通のポーチ。普通の入れ物。ただそれだけだ。柄の事は気にしちゃダメだ。

我は1枚の星金貨を試しにカウンターにおいてみる。どうだろう、どの程度の価値があるのだろう。少女の反応から、その価値がわかるはずだ。

少女は「えっ、これって」と言って驚いている。足りなかったのだろうか、そっともう一枚の星金貨を出す。「えっ、えっ」少女は驚いて、星金貨と我を交互に見てくるが、お会計をしてくれない。足らないのだろうか。

さらに我はもう一枚の星金貨を出す。「えええ」と少女はすごい驚いているが、まだお会計をしてくれない。やはり、100円くらいの価値しかなかったのだろうか。我がもう1枚だそうとしたところ、少女は以前と同じように「おかあさーん」と叫んで、店の奥に引っ込んでしまった。

しばらく待つと肝っ玉母さんの影に隠れるようにしながら少女が戻ってきた。肝っ玉母さんとはできれば会いたくなかったのだが。我を呪った張本人だ。

我が呪われたポーチを斜めがけにしているのを見て、肝っ玉母さんは満足そうに、「おや、気に入ってくれたみたいだね! あたしもうれしいよ」と笑顔で話しかけてくる。

我は、ぶんぶんぶんと首を左右に振るが、「そんな遠慮しなくていいんだよ」と肝っ玉母さんには通じなかった。ぐぬぅ、なんというマイペース。なんという自己解釈。おそろしいぜ、このおかん!

「で、また良いゴーレムが来たってのが大変なことなのかい、オリヴィア?」
「ち、違うよ、お母さん! 白いブラシを買いたいんだと思うんだけど、それで見たことがない金貨を出してきたの!! 私は実物を見たことがないけど、これってもしかして星金貨じゃないの?」
「はぁ? ブラシを買うのに星金貨を出すようなバカが……ここにいたんだね」

ん、この反応は星金貨ってかなり高いのだろうな。10,000円くらいの価値があったのだろう。300円程度のブラシに、10,000円札を出すなんて、両替目当ての買い物と思われても仕方ないな。我がひとりでうんうんと納得していると、肝っ玉母さんが話しかけてくる。

「良いゴーレム、あんた、この星金貨はこの店じゃ、いや、おそらく普通の店ではどこに行っても使えないよ」

えっ、なんで? 我は断固抗議する! 我はこのブラシが、ホワイティアが欲しいんだ! この星金貨に価値があるなら、交換して欲しいのだ!! もちろんお釣りなんてなくて良いのだ! 我は必死にアピールを続けるも肝っ玉母さんには通じない。

「無理無理、こんなの怖くて受け取れないね。あんたはお金の事を知らないみたいだから、ちょっと教えといてあげるよ。これが基本となる銅貨だ。ちなみに、この白いブラシは銅貨8枚だ、ここまではわかるね」

我はもちろんだと素直に頷く。肝っ玉母さんの説明が続く。

「こっちの小銅貨が10枚で銅貨1枚分になる。さらに銅貨が10枚でこっちの大銅貨1枚分になる。さらに、大銅貨10枚でこの銀貨1枚分だ。大体、普通に使うのはこの硬貨ぐらいまでだね」

なるほどね。銅貨1枚は100円程度なのかな。よくわからないけど。

「それでその上にはさらに大銀貨、金貨、大金貨があるんだけど、一番価値があるのが、あんたが無造作に出しているこの星金貨さ。星金貨なんて私たちのような人間は一生使う機会がないね」

な、なんと、それほどの価値があったのか!! ものすごく高いのはわかったけど、具体的にはどのくらいなんだろう。我が首をかしげると、肝っ玉母さんは察してくれたらしい。

「うーん、たしか星金貨1枚は銅貨100,000枚分だったと思うよ」
「そ、そのはずだよ。お母さん。前にお父さんがそう教えてくれた」

なんと、この星金貨は、銅貨100,000枚分だと! いつのまにか我って超お金持ちになっていたみたいだ! 我もこれでセレブの仲間入りだね! ちょっとうれしくなってくる。

「だから、この星金貨はしまってちょうだいな。うちの店では使えないから、このブラシは売れないね」
肝っ玉母さんの言葉に同意するように、少女はすごいぶんぶんと首を縦に振っている。

えええっと思いながらも、我はしぶしぶと星金貨をないわーポーチにしまう。使えない星金貨、使えないお金を持っていても仕方が無いと我は肩を落とす。しょんぼりとした我の姿に少女は同情してくれたようだ。

「お母さん、ちょっと良いゴーレムさんがかわいそうじゃない? このブラシくらいあげても……」
「バカ言うんじゃないよ、オリヴィア! 売り物をただであげる店がどこにあるんだい!」
「で、でも、あのポーチはあげたじゃない?」
「あれはいつまでたっても売れなかったから、在庫処分さ。7年も売れなかったし、誰も使おうって人がいなかったんだから、これとはちがう話だよ」

我は驚愕して肝っ玉母さんをまざまざと見る。ざ、在庫処分で我は呪われたのか。なんてこった。いつまでも売れ残っていた怨念がこのカバンにはしみこんでいるのかもしれない。

それにしても、肝っ玉母さんを見ていると少女の優しさが我が鋼の心に染み込んでくる。ありがとう、少女よ。典型的なお手伝い少女Aなんていってすまなかった。君はちゃんとした三つ編みお手伝い少女だ!

我は少女に手をふり店を後にしようとする。と、少女から声をかけられた。

「あ、あの良いゴーレムさん。以前つけていたリストバンドはどうされたんですか?」

ん、と思い左手首を見ると確かにリストバンドがない。どういうことだ。思い出せ、思い出すんだ。ゴーレムメモリーを読み込むのだ!

{選択:小さな人魚、女王の揺れるおっぱい、世界の地図、人魚の国からの旅立ち、ゴーレムの落下跡、イチロウとジロウとのハイタッチ、執事のパワセクハラ、飛び立つ竜王のどれを読み込みますか?}

えっ、なにそれ? ここは「ゴーレムメモリーというスキルはありません」と言ってくる場面でしょ?

まさか、ゴーレムメモリーで写真が読み出せるとは。我には説明書がないからな、手探りで我の機能を把握していくしかないのだ。しかたない、女王の揺れるおっぱいを読み込んでみるか。

<もふんと揺れてクッションになる女王のおっぱい>

うむ、たしかにあの時のイメージが寸分違わずよみがえってきた!!

こんな事なら、もっと心のシャッターを切っておくべきだった。今度、暇な時にお嬢様とかのことを思い出して、シャッターを切っておこう。

いかん。今はリストバンドに集中だ。あっ、もしかしてドラゴンの炎で燃えちゃったのか。ないわーポーチに夢中でリストバンドはまったく気にしてなかった。キャモメに頼んだら作ってくれるかな。

我はOKOK問題ないと手を振り、雑貨屋を後にした。

さらば、ホワイティア!
我以外の者に買われてしまってもどうか幸せになってくれ!

冒険者ギルドにやってきた。キャモメを探すと、ちょうど誰の相手もしていないようだ。キャモメの前に行き、背伸びをして我の存在に気づいてもらう。

「あら、ゴーレムさん。なにかありましたか?」

我は左手首を見せ、リストバンドをもう一度ほしいとアピールする。キャモメは「あっ、リストバンドをなくしちゃったんですね! すぐ用意しますから待っててください!」とイヤな顔一つせず、引き受けてくれた。

我はその接客態度にいたく感心してしまう。やはりキャモメはなかなかいい受付嬢だったみたいだな。我がリストバンドを待っていると、チャラオが近づいてこようとしている。

んー、何か用かな。

「おい、はぐれゴーレム! てめえ、この前」

びゅん、ガン!!「ぐっふぉおおおお!!」バタン。

えっ? い、いすが飛んできたぞ。すごい速さでチャラオに当たった。受け身も取らず倒れたようだが、大丈夫か、チャラオ。我はチャラオを心配して、様子を見ようとするとキャモメが声をかけてきた。

「ゴーレムさん、大丈夫ですよ。ギュリオさんはそれくらいじゃ死んだりしませんから!」

いや、たしかに死にはしないだろうが、ケガはするだろう。いいのか、放っておいて。

「ゴーレムさんに手出し無用なのに、からんでいこうとするギュリオさんが悪いんです。ねぇ、皆さん」

キャモメはそういうと笑顔で周りにいた冒険者達をぐるりと見回す。

「あ、ああ、キャモメちゃんの言うとおりだな」
「貼り紙も貼られているしな」
「今のはギュリオが悪かったな」

そうなのであろうか、みんながそう言うなら、まぁ、いいか。チャラオはもしかすると嫌われているのかもしれんな。我はキャモメからリストバンドを受け取り、ギルドから出た。今回もキャモメはギルドの外まで見送ってくれた。まるでVIP待遇だ。なにか下心を感じないでもないが、まぁ、いいや。

そして、この日から我がギルドで絡まれることはほとんどなくなった。

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