土足を悩むゴーレム

130 屋敷の中では

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開かないはずの門を開けることができたので、入ってみたのはいいものの、どうしよう。

しばらく待っていても案内をしてくれる者が現れる様子はない。ちょっと日差しもきついので屋敷内にお邪魔しようかな。

我は正面にある玄関らしき引き戸を開ける。

おぉ、外から見て和風な建物だとは思っていたが、これは靴を脱いで上がる必要がありそうだ。これは土足厳禁だ。ただ、我は靴を履いていない。ゴーレムだから。まぁ、そんなことをいったら、服すら着ていないし、ないわーポーチ以外、常に身につけているものはないのだ。

こまった、足を拭く布もないし、足を洗う水もない。
声をかけて屋敷の人を呼びたいが、声も出ない……。

むぅ、しかたない。庭へと回ってみよう。

 

◇◆◇◆◇

 

この屋敷でかい。
あっ、泉水がある。我は泉水に近づき、池の中を覗き込む。
おお、赤や白の鯉が優雅に泳いでいる。餌をあげたいけれど、餌はない。

鯉

しばし、鯉を見ながら休憩しよう。近くにあった木陰に座った。

 

◇◆◇◆◇

 

我が鯉を見ながら木陰で休んでいると、じゃ、じゃ、と砂利の上を歩いてくる足音が聞こえた。

我がそちらに視線をやると、木箱を持った少女がいた。

「だ、誰?」

少女は怯えたように声をかけてくる。
こんなかわいらしいメタルボディを前にして、怯えなくても良いのではなかろうか。

我はないわーポーチから、ノートを取り出し、<我はゴーレムなり>と書いたページを開き、少女に見せた。

「ゴーレム? なぜ、ここにいるのですか?」

我はすらすらと<門の前に人だかりが出来ていたので、門から入ってみた>と書き、少女に見せた。

「そんな、屋敷の門は私以外開くことができないはず。それなのに、でも、ここにいるということは本当に門から入って……」

我はハッとなる。我が旅の目的を忘れるところであった。

<パンダを知っているか?>

我は知らないだろうと思いつつも、パンダについて尋ねてみた。
小さな事もコツコツと続ける事が大切だ。

「パンダ? なんでしょうか、それは」

おぅ、やはりご存じなかった。まぁ、よいさ。
パンダはそんなに簡単に出会えないからパンダなのさ。我は一人で納得しつつ、少女が持っている木箱を指さした。その木箱ってもしかして、鯉の餌が入っているんじゃなかろうか。

「これですか、これは鯉の餌ですよ」

少女は木箱のふたを開けて我に見せてくれる。
我は鯉に餌をあげたいとジェスチャーで伝える。少女はしばし我を見て考えていたが、何とか我の思いは伝わったらしい。しかし、少女は首を横に振った。

「ゴーレム殿、これは鯉の餌であって、あなたが食べる事はできません」

我の思いは、全く伝わっていなかった。
しかたなく、ないわーポーチからノートを取り出し、<鯉に餌をやりたい>と書いて見せたことでようやくわかってくれた。少女ははにかみながら我にも餌をとれるように木箱を下げてくれる。

「食べたいのではなくて、餌をあげたかったのですね。どうぞ、鯉に餌をあげてください」

我は鯉の餌を片手でとり、池に投げる。
鯉たちが先を争うようにぱくぱくと餌を食べている。
ふふふ、まだまだ餌はあるから、落ち着いて食べな。

 

◇◆◇◆◇

 

鯉に餌をあげた後、少女に案内されて屋敷内に入った。
少女が手を叩くと、屋敷の女中が足を洗う水を持って来てくれた。
我がきゅっきゅと足を洗った後、女中がさっと布を出してくれる。

な、なんて、きれいな布。
この布くれないかな。しかし、我には布の対価として渡すことができるものがない。

足をきれいな布でふいた後、我はなくなく、きれいな布をたたんで女中に返した。

 

◇◆◇◆◇

 

少女に案内されて通されたのは、庭の見える大きな和室。

座布団が用意されていたので、我は正座をする。ふふ、メタルボディだから、足がしびれることがない。今の我なら何時間だって正座出来るぜ!

女中がお茶を我の前に置いて下がった後、対面にすわる少女が我に話しかけてきた。

「どうぞ、冷めないうちにお召し上がりください」

我はお茶と少女を交互に見る。お茶を出してくれるのはうれしいが、我はメタルゴーレムだから飲食できない。ノートを取り出して、<ゴーレムだから飲めない>と書いて見せた。

「そ、そうなのですね。この屋敷に入ることが出来たということは、おそらく上位の御方なのでしょう。私は秋を任されている秋姫と申します」

秋姫とな。
では、この少女が引きこもっている秋姫様ということか。

<屋敷の外で、多くの者が出てくるのを待っていた>

我は屋敷の外の状況をノートに書いて伝えると、秋姫は顔を俯かせた。

「ええ、私も外の状況はわかっているのですが、問題があって秋を呼ぶ事ができないのです」

我は首を傾げる。引きこもってゲームをしているわけでもないし、ダラダラと寝ているわけでもない。健康にも特に問題はなさそうだけど。我の疑問が伝わったのか秋姫はさらに話しを続けた。

「私が秋を呼ぶ為に奏でる精霊が宿った楽器、秋風の琴が音を奏でなくなってしまったのです」

音を奏でない? 物理的に壊れたということか?
物理的に壊れているだけなら、我の復元で直せるのだけれど。
鯉の餌やりもさせてもらったし、うむ、その秋風の琴を直してみせようではないか!

我はノートにせっせとメッセージを書き、秋姫に見せた。

<我が直そうか?>

 

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