この地を離れなさい

142 閃くゴーレム

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 我はゴーレムなり。
 木の上から落ちてしまった哀れなゴーレムなり。

 我がむくりと起き上がると、すぐ側から声が聞こえてきた。

『大丈夫?』

 我は、ビクゥッとして、振り向く。
 木の枝の上にいた女の人だ。
 我は肯定を示すために頷いた。

『木の上に登るのは危ないから止めた方がいい。私の樹は大きいから』

 むぅ、我はおぬしを注意するために登ったのに、逆に注意されることになるとは……。
 我は哀しい……。

{ログ:【悟りしモノ】の効果により、悲哀状態が解消しました}

 おぬしはあんな木の上で何をしていたのだと我は女の人にジェスチャーで問いかける。
 女の人は首を傾げた。

 だめだ、我ほどになってもまだジェスチャーレベルがたりないのか。
 ぐぬぬと思っていると女の人がおもむろに語り出した。

『あなたが何を伝えようとしているのかはわからないけれど、この地を早く離れた方がいい』

 我は女の人を見ながら首を傾げた。
 女の人はさらに語る。

『この地は今、闇に閉ざされつつあるの』

 我はうむと頷く。あの黒い雲のせいでこの辺りは暗い。
 物理的な意味で。

『そのため、この地は植物も育たなくなる』

 植物が育たないのは大変だな。ご飯が食べられない。
 我はゴーレムだから、もともと食べられないけれど。

 女の人は、黒い雲を睨み、さらに言葉を続ける。

『あの黒い雲には魔法も効かないから晴らすことができない』

 我は首を傾げる。雲に魔法が効かない? どういうことだ?
 天候を操れる魔法でもあるというのだろうか?

 問題は黒い雲で、闇に閉ざされつつあるというところなのだろう。
 我の身体をきれいに磨いてくれたあの子供達のために我ができることはなんだろうか。

 はっ!

 我は気付いた! 閃いた!

 我はキンと胸をたたき、女の人に向かって胸を張った。
 我に任せよ!

『ど、どうしたの? 突然』

 我は黒い雲を見上げる。
 あの辺りから、あの辺りまででいいかな。

 我はラインライトを黒い雲のすぐ下の辺りに、何本も発動させた。
 暗くなっていた周辺は昼間のように明るくなった。

 ふぅ。これであの黒い雲があっても大丈夫だ。
 夕方くらいから徐々に暗くして、夜には消す。
 そして、日の出くらいから徐々に明るくする。

 眠ることがない我だからこそできる。完璧だな!
 我は自分が恐ろしい。こんな素晴らしいことを閃くなんて。

 我は一人でうむうむと頷いた。

『えっ、えっ、えっ? あれは、光魔法? 棒状って事はラインライト?
 えっ、でも、ラインライトって自分の近くを照らすくらいなんじゃ』

 我は女の人に向かって、うむと頷いた。
 ラインライトマスターの我にかかればあれくらい造作もないことさ。

『光があれば、植物は育つけど……えぇ?』

 女の人は困惑しているようだ。
 ジェスチャーでは伝わらなかったので、ないわーポーチからノートを取り出して、メッセージを書いた。

<これで植物が育つ>

 女の人は我のノートを見た。

『これは、共通語かしら? 私は人の文字はあまり得意ではないのだけど。うーん、なんて書いてあるのかわからないわ』

 女の人は我の書いた文字が読めないようだ。
 ひょっとしてこの女の人、まさか、そうなのか?

 勉強がいやで、木の上に逃げていたというのか?
 我は自分の考えが間違いであって欲しいと思いつつも、我の書いた文字が読めない女の人を見て、確認するのは止めた。

 世の中には踏み込まない方が良いことがある。
 我は優しい目で女の人を見つめ、そっと頷いた。

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 我のラインライトで辺りが明るくなったので、一旦村の様子を見にいくことにした。

 女の人はどうやら大きな樹に留まるようだ。
 そんなに勉強が嫌いなのか。

 我が村の方に歩いて行くと、村人が家の外に出ている。
 暗いときには家の外にいた人はほとんどいなかったが、今は結構な人が外に出ている。

 ふふ、ラインライトはやっぱりすごいね。

 おっ、あの子供達ではないか。
 元気に外を走り回っている。

 子供はあのように笑って走り回っているくらいがちょうど良いね。

 我は村の様子を確認しつつ、念の為、パンダも探したが、パンダはいなかった。
 やはり、笹がある場所を探すのが一番か。

 しばらく村の様子を見ていたら、遠くの方が徐々に暗くなってきた。

 我は、はっとして、空を見上げる。
 我のラインライトによってこの辺りは昼間のように明るい。

 これではダメだ。
 我は急いでラインライトを細くしていく。

 うむ、徐々に暗くなってきた。

 いいよ、いいよ。
 いいよ、我。

 村人達も、すでに夕方な事に気付き、家に帰っていく。

 日が沈むのに合わせて、我もラインライトを消した。

 おし、完璧だ。

 この調子で黒い雲が無くなるまで、ラインライトで照らしてやればよい。
 さすがに、もう何日かすれば暗雲もなくなるだろう。

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