さらばパンダ

148 パンダよ、永遠に

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「あった」

 守護者と呼ばれるパンダは魔界への扉をくぐり、奥へと進んだ先にそれを見つけた。

 パンダが立つそこはすでに魔界だ。
 普通の者であれば、周囲の瘴気により立つことすらままならないだろう。

 魔に属す者たちが生き、住まう場所。
 それが魔界。弱肉強食の理が支配する。

 灰色の魔法陣が刻まれた立方体の前にパンダは立った。

「ミーは、地上を守る」

 覚悟を決めた男の瞳で、パンダは灰色の立方体を見つめる。
 両手をそっと灰色の立方体に添えた。

「さらば、地上」

 パンダはそっと目を閉じた。

 ◇ ◆ ◇

 我はゴーレムなり。

 パンダを追いかけて、魔界への扉をくぐっちゃった。
 大丈夫だろうか。いや、そんなことはどうでもいい!

 今なら、まだパンダに追いつけるはずだ。

 我はもっとパンダとふれあいたい!
 パンダ、待ってくれ、パンダ!

 ゴン!

 いたっ。
 ゴーレムだから痛くないけど。

 はやるあまり、こけてしまった。
 我は急いで立ち上がり、先へと進む。

 基本的にはまっすぐな道が続いている。
 しばらく走ると、大きな部屋へと出た。

 !!
 いた!
 パンダだ!
 パンダだよ!
 パンダパンダ!

{ログ:【悟りしモノ】の効果により、興奮状態が沈静化しました}

 ふー。
 パンダは人を狂わせる。恐ろしい。
 これがパンダってヤツか。

 我は額の汗をぬぐう。
 汗はかいてないけれど。

 我はパンダを驚かせないように、スキップをしながら近づいた。

 !!?

 パンダの前には、灰色の立方体がある。
 あの立方体は近づくと飛ばされるヤツだ。

 まずい、またパンダと離ればなれになってしまうぞ。
 我はどうすればいい。

 我が戸惑っている内に、パンダは立方体にそっと触れた。

 あれ、パンダだと立方体に触っても大丈夫なのか?

 我が疑問に思っていると立方体が光輝き出した。
 灰色だった立方体が光輝くと共に徐々に白くなっていく。

 あの立方体って色が変わるんだ。
 へぇ、と思い立方体の変化に感心していると、立方体の傍らに立つパンダも徐々に変化していることに我は気付いた。

 なっ。

 まさか、そんなことがあるのか!?
 我は驚愕に目を見張る。

 パンダは魔界への扉を閉めると言っていた。
 我は、ちょっと行って、よいしょっと閉めるくらいかと思っていた。

 だが、違う。
 違うのだ。

 パンダは、今、まさに、そのパンダとしての存在をかけて魔界への扉を閉じようとしている。

 パンダ。
 お前ってヤツは、お前ってヤツは。

 我は、お前というパンダがいたことは忘れないよ。

{ログ:【悟りしモノ】の効果により、悲哀状態が解消しました}

 灰色の立方体が白くなった。
 我はここに来るまでに走ってきた道を振り返る。
 そこにはもう道はなかった。

 パンダ、お前はその存在をかけて、魔界への扉を閉めたのだな。

 我は白い立方体に静かに近づいた。
 そこにはもうパンダはいない。

 いるのは単なるクマだ。
 パンダの白い部分はなくなり、黒クマが佇んでいるだけだ。

 多分、パンダの白い部分で、灰色の立方体が白くなったのだろう。

 多分。

 我は白い立方体の前で佇む黒クマに近づき、ポンポンと背中を叩く。

 黒クマは驚いたように、我を見つめてくる。

「!? 君は、銀色の人形殿!? まさか、ミーの後を追いかけてきたのか!?
 もう扉は閉じてしまった。地上へは戻れないぞ!?」

 黒クマは慌てたようにしゃべり出す。
 我はその姿を見て、やはり、もうパンダはいないのだと肩を落とす。
 我の心は黒クマではときめかない……。

 我は傍らにある白い立方体に手をついて落ち込んだ。

{ログ:【悟りしモノ】の効果により、がっかり状態が解消しました}

 まぁ、パンダはいないけれど、パンダには会えたんだから、我のパンダに会うという旅の目的は達成されたのではないだろうか。

 うんうんと我が一人で頷いていると、立方体に刻まれた魔法陣が輝き出した。

 ん?
 我が触ったから?

 我が疑問に思うと同時に、我と黒クマは光に包まれる。
 すまぬ、黒クマ。

 多分、我らはどこかに飛ばされてしまう。
 さらに光は強くなり、周囲が見えなくなった。

{ログ:封印石は封印者でない者の魔力を感知しました。封印者でない者はランダムに転移させられました}

 ◇ ◆ ◇

 光が消えた後、白い立方体の側には、全身が黒くなったパンダが佇んでいる。

「消えた。銀色の人形殿はどこに……」

 全身が黒くなったパンダは首を左右に振る。

「いや、銀色の人形殿ならば大丈夫だろう。あの強さ。ミーが心配しなければいけないのは、ミー自身だ」

 辺りには先ほどと同じように瘴気が立ちこめている。
 しかし、全身が黒くなったパンダにはさきほどまでの息苦しさはない。

「ミーは、魔界で生きていく」

 全身が黒くなったパンダは、白い立方体を残して立ち去った。

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