判子を押すゴーレム

151 働く

投稿者:

 我はゴーレムなり。

 ゴーレムの一団と一緒に門の中へ入った。
 ふぃーっと一息つく暇もなく、どうやらゴーレムたちはすぐさま働き出すらしい。

 まぁ、我も疲れてないし、食事も必要ないし、休む必要はないと言えばないからね。
 ゴーレムだから。

 門の中に入れた事だし、我は一人でブラブラしよう、いや、地上へ帰るための情報収集をしようと思って、ゴーレムたちを見送り、列を離れようとする。手を振りながら見送っていると、黒っぽいゴーレムが、我に気付いて近づいてきた。

 なんだ? 別れの挨拶か?

 律儀なゴーレムだぜと思いながら、我はびしっと気をつけをして、黒っぽいゴーレムに向かってなんとなく敬礼をした。

 黒っぽいゴーレムが我の目の前までやってくる。

「何ヲシテイル? オ前ニモデキル仕事ハアルカラ心配スルナ」

 いや、我は別に仕事の心配はしていないのだけれど。

「サァ、行コウ。ヤルベキ仕事ハ多イゾ」

 黒っぽいゴーレムがぐいぐいと我の手を引っ張っていく。
 力尽くでふりほどくことはできるけれど、門の中に入れたのは、この黒っぽいゴーレムのおかげでもある。

 むむー。

 しかたあるまい。
 我は恩知らずなゴーレムではない。

 恩を返す、いや、ただ返すのではなく、1.5倍、いや、1.2倍くらいにして返す律儀なゴーレムだ。
 情報収集は少し後回しにして、ゴーレムたちの仕事を手伝おうではないか。

 我は黒っぽいゴーレムに手を引かれながら、ゴーレム達の後を追った。

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 我は手に金属製の判子を持ち、インク壺を肩からかけて壁へと向かう。

 ゴン、ゴン、ゴンと我は壁として積まれている石に判子を押していく。
 積まれている石が少しへこむくらいの力で判子を押す必要があるとのこと。

 どうやら、この判子は簡易魔法陣らしく、壁として積み上げる石の強度を少しだけ上げる効果があるらしいのだ。刻印と塗布で魔法陣を刻むことで壁の強度を増すための重要な仕事だ。

 我は壁として積み上げられた石に黙々と判子を押していく。

 ゴン、ゴン、ゴン。

 ちょっと、印影が薄くなってる。
 判子をじゃぽっとインク壺につける。

 ゴン、ゴン、ゴ、ゴン、ゴン、ゴン、ゴン。

 うむ、いい。きれいに押せてる。

 ゴン、ゴン、ゴン、ゴン。じゃぼ。

 ちょっと楽しい。

 ゴン、ゴン、ゴン、ゴン、ゴ、ゴン。

 うーむ、我って判子押し職人の才能があるんじゃなかろうか。

 ゴン、ゴン、くるっと回って、ゴン、ゴン。

 ふー、自分の才能が怖くなるね。

 ゴン、ゴン、じゃぼ。ゴン、ゴゴン。

 先はまだまだ長いけれど、我はゴンゴンと判子を押し続ける。

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

「なっ、あんな判子の押し方じゃ、きちんと簡易魔法陣が石に刻まれないだろ!」

 現場管理者は、ポンポンと判子を簡単に押していく小さな銀色のゴーレムを見て、慌てて判子を押された壁に近づいた。

「もう一度、やらないとだめか?」

 不安そうに現場管理者は、壁として積まれた石に押された判子を確認する。
 一つ目を見て首をひねり、二つ目を見て目を細め、三つ目を見て目を見開いた。

「まじか?」

 どの石に押された判子もきちんと刻印がされ、インクの塗りも申し分ない。

 壁の石は、もともと硬い。
 それに刻印するための金属製の判子は、使っているとすぐに潰れて刻印が薄くなってしまう。いつもなら、もう判子を交換しないと潰れて、まともな魔法陣を刻みつけることができないはずだった。

 しかし、小さな銀色のゴーレムが押している魔法陣はどれを見てもきれいに刻まれている。
 たまに1つの石に2つの魔法陣が刻まれていたりするが、それは問題にすらならない。

「どういうことだ?」

 現場管理者は、小さな銀色のゴーレムを見ながら、首をひねった。

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 我はくるくると回りながら、判子をゴンゴンと押していく。
 他の判子押し係と比べて、我の判子を押すペースはかなり早いのではなかろうか。

 ふふふ、判子マスターと呼ばれる日も近いな。

 我はゴンゴンと判子を押していく。

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 我は来る日も来る日もゴンゴンと壁の石に判子を押していく。

 ゴーレムには休憩がいらないからといって、ゴーレムたちは昼夜関係なく働き続けている。
 ……我はそろそろゴロゴロしたい、いや、情報収集をしたいのだけど。

 まるでブラック企業だと思いながらも我は華麗にゴン、ゴン、ゴン、ゴン、じゃぼ、と判子を押す。

 まだまだ判子が押されていない壁の石は多い。

 まったくまったく!

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 人には適度な休憩が必要だ。
 我はゴーレムだけど。

 我は判子につけるインクが空になったのを幸いと、持ち場を離れた。
 ちょっと空になったから仕方ないよね、補充してくるねという雰囲気を醸し出しつつ、こそこそと移動する。

 いくら判子マスターの我とはいえ、何日も何日も判子を押すだけでは飽きてしまう。

 こう、もっと違う仕事もさせてくれれば良いのに。

 石を積むのだって、我なら余裕だ。
 我はトランプタワーだって余裕で作れる。
 たった3時間でトランプタワーを1つ作った実績だってある。

 我は石を運んで、壁に積んでいる一団に近づく。
 我は物陰から彼らの作業をじーっと見た。

 ふむ、やはり、単純に石を積み上げているだけのようだ。

 あの石はどこから持って来ているのだろう。
 我は石を運んできている者達の後をこっそり付ける。尾行は得意だ。

 しばらく後をつけていくとカーン、カーンという音が聞こえてきた。
 何さ、この音は。

 我は音のする方へと駆け出す。

 どうやら、大きな石を割って、形を整えているようだ。
 確かに壁に使っている石の大きさは、きれいに揃っている。

 大変そうだ。
 しかし、なぜ、彼らは手作業で石を割っているのだろう。
 魔法があるんだから、魔法でちょちょいと石を割った方がいいだろうに。

 そもそも、石を魔法で作り出した方が良いのではなかろうか。
 我は石を作り出す魔法は使えないけどさ。

 もしかして、あの石は魔法では割れないとか?

 我は疑問に思ってまだ割られていない大きな石に近づく。
 ゴーレムアイを使って、割った石の大きさはすでに解析済みだ。

{ログ:ゴーレムアイというスキルはありません}

 我は解析済みの情報を元に、ラインライトを使って石を切ってみる。
 すぱっといけた。

 ……?

 あっさりいけるぞ。なぜ手作業?

 我はすぱすぱと石をラインライトで切っていく。
 豆腐を切るがごとくすぱすぱと切れる。

 ふぅむ、ますます、よくわからないな。手作業でこの石を割っている理由が。
 ストイックなのだろうか? 筋肉をいじめることに快感を覚えるとか?

 我は首を傾げながらラインライトでさらに石を切っていく。

 なんでだろう、なんでだろう、と思いながらラインライトで石を切っていると頭をガッと掴まれた。

 ……。
 我が振り返るとそこには黒っぽいゴーレムがいた。

「小サイノ、ココデ何ヲシテイル?」

 ………。
 我はそっと目をそらす。ごまかせるか?

「小サイノ、ココデ何ヲシテイル?」

 もう一度言われた。

 我は慌ててインク壺を見せる。
 ほら、から。空なんだよってアピールする。

 黒っぽいゴーレムは、空のインク壺と我を交互に見てくる。
 やばい、サボってたのがばれるやもしれん。

 いや、よく考えれば石を切っていたのだから、働いているではないか。
 うむ、我はサボってない!

 サボっていないことに気付いた我は落ち着いて黒っぽいゴーレムに相対する。
 ちょっとインクを補充に来ただけなんだと示しつつ、その場を離れる。

 ふー、あぶないところだったね。

「ナゼ、コノ石ヲ魔法デ切ルコトガデキル?」

 黒っぽいゴーレムが何かを言っていたけれど、気にしちゃダメだ。
 今度は真面目にインクの補充に行こう。

 我は黒っぽいゴーレムの視線を受けつつ、インク壺にインクを入れに行った。

<前へ 目次 次へ>