山を切る

153 飼い主の責任

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 我はゴーレムなり。
 大勢のオーク達が何とか壁の中に入ることが出来たのを見ているゴーレムなり。

 うーむ。
 我は思う。

 これって狭いよね。

 狭い。
 間違いなく狭い。
 東京の人口並みに過密だと思う。

 我は腕を組みながら、最近完成したばかりの壁から、内側の壁までを歩いた。

 ふむふむ、このくらいの距離でいいのか。
 なんなら、もう一重壁を作っちゃう?

 ケガをしているオークも多いけれど、全く動けない訳じゃない。
 オーク達も作業に参加してくれるなら、壁を作るのもきっと早いさ。

 おし、そうと決めたら、行動開始だ!
 我は行動でみんなを引っ張るタイプだから!
 みんなもきっと察してくる!

 我は両手を振り上げて気合いを入れると門の外へと駆け出していった。

 ◇ ◆ ◇

 まずは石材の準備だ。
 我は石を切り出していた山へと辿りついた。

 壁が完成したからか、誰もいない。
 町に帰ったのだろう。

 石材はどのくらいいるだろうか。
 たくさんあった方が良いのは間違いない。
 多すぎても予備として使える、多分。

 おし、だれも巻き込む心配がないから、山を丸ごと切ってみよう。
 他の者がいた時は、あぶないから短いラインライトで切っていた。
 けれど、効率を考えたら、山ごと切った方がどう考えても早い。

 我は効率も重視するよ!

 我はラインライトを地面から、山頂まで水平に等間隔で発生させる。
 長さも山を一度で切れるだけの長さにする。

 我はそのままラインライトを動かす。
 シュッとやったらあっさり切れた。

 やはり魔法はすごい。

 いや、違う。

 魔法がすごいのではない。
 ラインライトがすごいのだ!

 さすが、ラインライト!
 つまりラインライトマスターの我もすごい!
 ラインライトを覚えることに決めた過去の自分は間違ってなかった。

 横で輪切りにしたから後は上から、格子状に並べたラインライトを下ろせば、きれいな石材のできあがりだ。

 我は、格子状に並べたラインライトを上から下ろす。

 これもすぱっといけた。
 豆腐のようにきれいに切れた。

 ふふふ。

 なんか、今の我っていつも以上にピカピカと輝いている気がする。
 あれだ、仕事のできるゴーレムって感じだ。

 あっ、ラインライトをつけたままだった。
 ラインライトは消しとこ。

 さて、石材をはこ……。

 あれ、山を丸ごと切ってしまったが、これってどうやって運べば。
 上の方の石は持って降りる時に危ないかな?

 いや、まぁ、なんとかなる。
 人海戦術でなんとかなる。

 我のないわーポーチには、いっぱい入る便利機能はないから、コツコツがんばって運ぶしかない。

 我は石材をひとつ持って町へ帰ることにした。

 ◇ ◆ ◇

 ◆ ◇

 ◇

「服従か、死を選べ」

 山のように大きな魔物マウンテンゾウの背に乗った辺境の魔王の配下が、辺境の町の壁の外で大声を上げた。

 魔界は何年か前に大魔王がほぼ1000年ぶりに帰還した。

 にもかかわらず、そのまま大魔王が姿を消したために、各地の力ある者達が勝手に魔王を名乗り始めてしまった。

 一度始まった混乱は魔界全土を巻き込もうとしている。
 この辺境の町でさえ巻き込まれずにはいられない。

 壁の中にいる町の者からは口々に不安と不満がこぼれ出る。

「あんな魔物に襲われたら、こんな壁ぐらいじゃどうしようもないぞ!」
「あぁああああー! もう終わりじゃああああ!」
「オーク達が来たから、あれらを呼び寄せたんだ!」
「そんなの関係ない!遅かれ早かれ奴らは来たんだ」
「逃げるんだ! とっとと逃げるんだよ!」
「どこに逃げるって言うんだ! 俺たちに行くところなんてない!」

 ゴーレムの作業団も、壁の中で今後を話し合っていた。
 傍目にはただ立ちすくんでいるだけだが、目をチカチカさせて意見を交わしている。

 いきなり現れて服従か死を迫るような相手では、従ったとしても使い潰されて終わりだろうという意見にまとまりつつあった。

 そんな時、黒いゴーレムがふとあたりを見回した。
 あの銀色の小さいゴーレムがいない。
 不良品かと思っていたが、いろいろな行動や能力がおかしいゴーレム。
 この場にいないのであれば一体で逃げたのかもしれない。

「無事ニ逃ゲテクレテイレバイイガ」

 黒いゴーレムは、その場にいない銀色の小さいゴーレムを想って呟いた。

 ◇ ◆ ◇

 マウンテンゾウの上に乗っている魔王の配下がいらだたしげに舌打ちをした。

「ちっ、いつまで時間をかけてやがる」

 いいことを閃いたかのように魔王の配下は、ニィっと口の端を上げた。

「とっと決めろ! こんな壁なんてマウンテンゾウにかかれば、すぐにぶっ壊せるんだ!」

 ビシィっと魔王から与えられた鞭をマウンテンゾウにたたきつけ、命令する。

「お前の力を少し見せてやれ!」

 命令に従ってマウンテンゾウは、その鼻に勢いをつけて、壁をなぎ払った。
 壁の中の者は壁から離れようと逃げ惑う。

 そんな壁の中の者達をあざ笑うかのように、マウンテンゾウの鼻が勢いよく壁に叩きつけられる。

 ドゴォオオオという大きな音と土煙が舞い上がった。
 土煙が徐々にはれていくと、そこには無傷の壁があった。

 身構えていた町の者達は壁を見て呟く。

「えっ?」
「なぜ?」

 魔王の配下も無傷の壁を見て口を大きく開ける。
 ビシィッとマウンテンゾウに鞭をうち、「もう一度だ!」と大きな声で叫んだ。

 マウンテンゾウはもう一度大きく振りかぶり、その大きな鼻を壁に叩きつける。
 何度も、何度も叩き付ける。

 しかし、壁はびくともしなかった。

「なんで、この壁は壊れないんだ!?」
 魔王の配下はいらだたしげに叫ぶ。

 そんな中、壁の内側にいた壁を作る現場管理者だった者はふと思い出した。
 あの辺りの壁はあの小さい銀色のゴーレムが判子を押していた場所だ、と。

 混乱が加速していくなか、彼方から小さな銀色のゴーレムが町の方へと走ってきた。

 ◇

 ◆ ◇

 ◇ ◆ ◇

 我は走る。

 どうすれば、あの石材を効率よく運べるかをかんがえながら、町へと向かって走っている。

 やはりここはバケツリレー方式を採用した方がいいのではなかろうか。
 火事の時もバケツリレーするし。
 うむ、いける気がする。バケツリレーだ!

 そんなことを考えながら走っていると町の方に見慣れぬ山がある。

 山?

 なぜに?

 まさか!?
 我は違う方に向かって走ってた!?

 我は一度立ち止まる。地面を見ると石を運んでた跡もあるから、間違ってないはずだ。

 では、あれは何だ?

 我は首をひねる。

 はっ!?

 こんな時こそゴーレムアイだ!
 ゴーレムアイはすべてを見通す!

 我は石を地面に置き、その上に上った。
 どーんとポーズを決めてゴーレムアイを発動させる。

{ログ:ゴーレムアイというスキルはありません}

 ………おし、とりあえず近くまでいけばわかるはすだ。
 我は再び石を持ち上げ、町まで急いで帰ることにした。

 ◇ ◆ ◇

 町に近づくとドゴオという大きな音と砂ぼこりが舞い始めた。

 これは間違いなく何かが起こっている!
 我のシックスセンスが事件だとカンペをだしてくる。

 あっ!
 あれはこの間の逃げていった大きな象!

 ああぁ!?

 あの長い鼻で我が積み上げたり判子を押したりした壁をベシベシ叩いてる!

 なんてことを!
 なんてことをしてくれているのだ!
 あの象は!

 こうなっては野生の動物だなんだと言っている場合ではない。
 駆除せねば!

 我は石を地面に置いて、壁を長い鼻でバシバシ叩いている象の前へと移動する。
 ラインライトを我の動いた後に発動させて、光の軌跡を描きながらの登場だ。

 象の長い鼻を我はべしっとたたき落とす。

 象は我に気付き、大きく一歩後ずさった。

 もう今度は許さないよ! 象鍋にしてやる!
 我は両手を大きく上げて象を威嚇する。

 我がジリジリと象に近づくと、ビシィという音が聞こえてきた。

 何だ?
 我は首を傾げて、音が聞こえてきた象の背中の方を見上げる。

「こんな壁ぐらいとっとと壊せ! この役立たずが!!」

 もしかして、この象の背中に誰か乗ってる?

 ビシィという音がまた聞こえてくる。
 やっぱり、誰か乗ってるよね。

 もしかして、野生の大きな象なのかと思っていたけど、誰かが飼っている象なのか?

 我は走って勢いをつけジャンプをし、象の背中へと飛び乗った。
 シュタッと着地する我。
 ラインライトで描いた光の軌跡がかっこいい。

「なんだ!? お前は、この町のやつか!?」

 あっ、やっぱりいた。鞭も持っているしこいつに違いないだろう。

「とっとと服従か、死を選べ!」

 いきなり訳のわからないことを叫びながら、我に向かって鞭を振るってくる。
 我はパシッと鞭を受け止める。

 鞭がしゅわわと光となって消えて行った。

「なっ、魔王様からもらった鞭が!!?」

 鞭が消えると象の長い鼻が、目の前の慌てている者にぐるりと巻きつき、いきおいよく地面に叩き付けられた。
 その後、大きな象がドンドンと足で叩き付けた者を何度も踏みつけている。

 我は象の上から降りて、大きな象をなだめる。
 象はおとなしくなった。後ろに下がらせてお座りをさせる。これもまた我のジェスチャーに素直に従った。

 よくしつけられた象だと我は感心する。

 我は象が踏みつけた者がどうなったのか、象が踏みつけたことでできたクレーターのような穴を覗き込んだ。

 ……。

 うむ。踏みつぶされた蛙みたいになっておる。

 多分、象の上に乗っていたこの者が、象に無理矢理に壁を壊させようとしていたのだろう。野生の動物じゃないのなら、象ではなくこの飼い主の方が悪いのではなかろうか。無理矢理悪いことをさせようとしたから、象から報復されたのだろう。よくも悪くも飼い主の責任というやつだ。

 見てみよ。あの小さく縮こまった大きな象を……?

 あれ、大きな象だったのに、小さくなってる。
 んん? 何故だ?

 我は首を傾げる。つぶらな瞳で象が我を見てくる。
 象の前に行き、手を少し広げて見たら、象の身体が少し大きくなった。今度は小さくなるように手で示すと、象の身体が小さくなる。

 ! す、すごい!!
 この象、我のジェスチャーをちゃんと理解してる!
 皆わかってくれないのに、この象はわかってるよ!
 この象は頭いい!!!

{ログ:【悟りしモノ】の効果により、興奮状態が沈静化しました}

 はっ、そんな場合じゃない。
 石を切ったから、町の者にバケツリレーしてもらわないと。

 我が置いておいた石を持とうとすると、象が少し大きくなって、長い鼻で石を持ち上げてくれた。
 まぁ、なんて賢い象なんでしょう。

 やはり、さっきの飼い主に無理矢理悪いことをさせられていただけで、根は良い象なんだ。

 我は象にうむと大きく頷くと、象に石を持ってもらって門の方へと歩き出した。

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