穴が空いた牢屋

161 牢屋の中で

投稿者:

 我はゴーレムなり。

 執事とメイドに案内されて、勇者と聖女と賢者2人がいるという牢屋に案内された。

 牢屋?
 ここが牢屋?

 鉄格子があるのが牢屋だと思うのだが。
 普通の部屋の扉の前に来た。

 扉の模様がちょっとちがう?

 我は首を傾げながら執事とメイドを見上げる。

「この牢屋の中に勇者達がいます」

 部屋だよね? 牢屋なの?
 我は首を傾げながら、執事とメイドを交互に見る。

「そう、じゃあ、君たちは下がっていたらいいよ。
 危ないだろう」

 赤い髪に金色の瞳の女には疑問はないようだ。
 この状況についていけないのは我だけなのか。

 まぁ、わからないことを深く考えても仕方ない。

 なるようになる。

 我は適当に相づちをうった。

 赤い髪に金色の瞳の女が扉を開けて中に入る。
 我も後に続き、我の後に小さくなれる大きな象が続いた。

「おい、さっさと昼飯をもってこいよ!」

 入った我らにいきなり声がかけられた。
 部屋の中にいた若い男が立ち上がりながらわめいている。

「そうよ。食事くらいしか楽しみがないのだから、早く持って来て。デザートはフルーツの盛り合わせね」

 ソファに座っていた若い女がこちらを見ることなく、食事の注文をしてくる。

 どういうことだ?
 ここは普通の部屋のように見えるけれど、牢屋なんだよね。
 それなのに、特に拘束されていないし、捕まってるはずなのに、えらそうなのはどういうことだ?

 我は疑問に思い、腕を組みながら、首を傾げた。
 赤い髪に金色の瞳の女が目を細めながら、舌なめずりをした。

「あぁ、ここを治めていた魔王は、魔王をやめてどこかに行ったから、今までのような扱いは受けられないよ」

 立ち上がった男が腰にさしたままの剣に手をかけながら叫んだ。

「ああ!? どういうことだよ!
 とっとともってこいよ! こんな狭苦しい部屋にいてやってるんだから、ありがたく思いやがれ! オレ達はとっとと大魔王を倒しに行ってもいいんだぞ!」

 なんで、捕まえてるのに、武器を持たせたままなのだろう?

 よくわからない。
 武士道ならぬ、魔族道みたいな考えでもあるのだろうか?

 赤い髪に金色の瞳の女がくっくっくと笑いをこらえきれないように、楽しげに笑った。

「そもそも、ここの四天王にすら負けていたんでしょ、君たち?」

 赤い髪に金色の瞳の女の目がすぅーっと細められ、冷たくなった。

「それをよくもここまでずうずうしく振る舞えるものだ。
 此度の勇者は本当に質が悪いと見える」

「なんだと!?
 だまって聞いてれば、叩き斬ってやる!」

 勇者と思われる若い男がいきなり剣を抜いて、赤い髪に金色の瞳の女に斬りかかる。
 赤い髪に金色の瞳の女の目が笑ってない。

 まずい。

 我は勇者と赤い髪に金色の瞳の女の間に入り、ペチンと勇者にビンタした。

「へぶぁ!?」と声をあげて、壁の方へと飛んでいく勇者。
 ビタンと壁にぶつかって倒れた。

 危なかった。
 もう少しで勇者が丸焦げにされるところだった。

 ナイス、我。
 ファインプレーだ。

 そして、我は倒れている勇者と赤い髪に金色の瞳の女を見て首を竦める。
 我には首はないけれど。

 我はやれやれと両手を身体の横に軽く上げた。
 まったく、すぐ暴力で解決しようとするなんて。
 なんて野蛮な者達なのだろうか。

「勇者様!」
「勇者様に何をするのよ!」
「先に手を出したのはそっちだからな!」

 多分、聖女であろう女が慌てて壁際に倒れている勇者に駆け寄っていく。

 賢者(女)と賢者(男)が我に対して氷と炎の魔法を放ってきた。
 我は特に何もせずに、氷と炎の魔法を受ける。

 魔法が我に直撃し、ボン、ジュワという音と共に煙りなのか、水蒸気なのかわからないが、部屋の中が白くなった。まぁ、煙でいいか。

「この部屋が魔法の力を抑えるといっても、事前に練り上げていた魔力なら普通に魔法を使えるのよ」

 なぜか、勝ち誇ったような賢者(女)の声が部屋の中に響いた。

 そうか。
 この部屋は見た目は普通っぽいけれど、やはり牢屋なのだな。
 我はなるほどねと頷いた。

 部屋の入り口付近にいた小さくなれる大きな象が、ぶぉーっと鼻から息を出して、部屋の中の煙を吹き飛ばしてくれた。

 うむ。小さくなれる大きな象はよく気がきく賢い象だ。
 我は小さくなれる大きな象に感心する。

 煙がはれた後、賢者(女)と賢者(男)が驚きの声をあげた。

「なっ、無傷!?」
「この部屋の効果が思いの外強いのか」

 赤い髪に金色の瞳の女が、あきれたようにため息を吐いた。

「いやいや、君たちが弱いだけだよ」

「なんだと!?」
「私たちは勇者パーティーなのよ!」

「勇者といってもピンからキリまでいるからさ。
 君たちくらいだと魔王の側近レベルにやられるよ。事実、ここの四天王にも負けていたみたいだしね。
 それにこの部屋くらいの阻害で魔力が練れないようでは力量もしれているし」

 赤い髪に金色の瞳の女が、右手を前に出して、炎の魔法を壁に向かって放った。
 賢者(女)と賢者(男)の横を炎の魔法が通り抜け、ジュズンという音と共に、壁に大きな穴が空いた。

 なんてことを。

 いきなり建物を壊すなんてやりすぎではなかろうか。
 いや、賢者達にあてなかっただけ、配慮しているのか。

 賢者(男)が額に汗を浮かべながら、おずおずと問いただす。

「あ、あなたは一体、な、何者なんだ?」

「僕かい? 僕は元魔王さ」

「元魔王?」

「ああ、そうさ。そこのギンゴちゃんに勝てないから魔王じゃなくなったんだよ」

 赤い髪に金色の瞳の女が我の方に手を向ける。

 むっ?

 さきほど壁に向かって放ったよりも大きな炎の魔法、いや、雷も混ざった魔法を我に向けてはなってくる。

 閃光が部屋を駆け抜け、ジュッという音と共に壁が消えた。

 ちょっとこの部屋を壊すのは止めてもらいたい。
 いくら自分の部屋ではないといっても、遠慮なく壊すのはどうなのさと常識的な我は思うのだ。

「なっ」と賢者(女)が驚いたように目を見開いてこちらを見てくる。

 我は、賢者(女)の視線を辿り、後ろを振り返った。
 そこには外の景色が見えるようになった壁がある。

 しかたない。

 我はてくてくと壁に近づいていく。

 とりあえず、直しておこう。

 我は壁があったところに手を当てて、復元する。
 元通りになった。

 もうひとつの穴もついでに直しておこう。
 穴が空いたままだと雨風が入ってくるから大変だ。

 我はもう一つの穴もきれいに元通りにした。

 よし! と、心の中で声を出しながら指さし確認。

「僕の魔法を受けても、ギンゴちゃんはぴんぴんしてるでしょ。
 そこの勇者を叩いたのも本当に軽く叩いただけだよ。
 普通に叩かれたら僕ですらタダではすまないんだから。
 ギンゴちゃんが君たちの相手をするというから、僕はまぁ、見ているだけにするよ」

 そう言うなり赤い髪に金色の瞳の女は部屋の壁際へと歩いて行き、壁にもたれかかった。

 賢者(女)と賢者(男)がこちらを見つめてくる。

 我が腕を組んでてくてくと近づいていくと、賢者(女)と賢者(男)はひぃっといいながら尻餅をついて、後ずさった。

 さて、どうしよう。

 勇者とその一行と言えば、強さはもとより、優しさを持っているはず。

 優しくもあり、強くもある。それが真の勇者だ。

 この者達は強さもイマイチっぽいし、優しさも持っていない。
 つまり、真の勇者にはなれていない。

 真の勇者になれば、大魔王を倒せずとも、地上に帰った時に……。

 はっ、そうか、この者達は地上の者!

 我がノートに文字を書けば、読むことができる。
 なにより大魔王を倒すつもりということは、倒せるかどうかはおいておいて、大魔王のところには行くことになる。我も大魔王に地上に戻る方法を教えてもらいに行く最中だ。

 おし!

 なんか、皆が納得できそうな道筋が見えてきた。

 勇者達は、このままでは大魔王に立ち向かっても死ぬだけだろう。
 その前にそこら辺にいる魔王に殺されかねない。

 そして、この部屋に入ってからの言動を見る限り、勇者達は増長しているというか、叱ってくれる大人が回りにいなかったのではないかと我は思う。だから、あんないきった若者みたいな行動ができるのだと思う。

 ここは我が叱ってやりつつ、勇者達を指導して、大魔王のもとに行けばいいのではなかろうか。

 うむ、そうだ。
 それがいい。

 そうすれば、勇者達は大魔王と戦える。
 我は大魔王に地上への戻り方を尋ねることができる。
 魔界の住人も勇者達による余計な被害を受けないですむ。

 一石二鳥ならぬ、一石三鳥になるではないか。
 我は突然浮かんできた素晴らしい考えに、自分が恐ろしくなってくる。

 ふぅ、自分がたまに怖くなる。

 おーし、そうと決まったら、野村再生工場ならぬ、ゴーレム再生工場だ!

<前へ 目次 次へ>