閉鎖

163 真の魔王

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 我はゴーレムなり。

 勇者達と悪魔の兵士達を鍛えている働き者のゴーレムなり。

 我は来る日も来る日も働いた。
 7日に2日は訓練のない日を作った。
 その2日は赤い髪に金色の瞳の女が戦いを挑んできたので、たたきのめした。

 周囲の環境が戦いの影響ででこぼこになった時も我は復元で元に戻していく。
 我は皆が訓練しやすい環境を心がけた。
 うむ、うむ、ゴーレム再生工場は実にホワイトな職場だ!

 我は訓練で疲れて倒れている勇者達に<風邪を引かぬようにな>と紙にメッセージを書いて渡した。
 正確に言うと倒れていたので渡すことができず、聖剣を重し代わりに使って置いて帰ったのだけれど。

 それにしても、今日も一日よく働いた。
 全く疲れていないけれど、なんかこう、達成感がある。

 我、頑張った! って感じのね。

 しかし、我にはまだやることがある。

 周辺の警備だ。

 悪魔の兵士達が大勢訓練に参加するようになったので、周辺の警備をする者が減ってしまった。我はこれから夜の警備をせねばならぬ。

 あれは、そう。悪魔の兵士達が訓練に参加した初日の夜中のことだ。夜中なのに悪魔の兵士達が、疲れた身体に鞭を打って周辺の警備に向かっているのを我は見つけた。

 訓練を終えたばかりなのに夜も仕事をするとは、と我は衝撃を受けた。

 我は思った。

 ゴーレム再生工場はアフターフォローも万全にせねばならぬ、と。

 我の心にわき上がってきたこの思い。

 警備に向かう兵士達の前に、颯爽と現れて警備は任せろ! と、兵士達には休むようにジェスチャーで伝えた。

 兵士達は感動に身を震わせつつ、帰って行く。
 うむ、後は我に任せて明日の訓練に備えて眠るがよいさ。

 ちなみに昼間の訓練中は小さくなれる大きな象に周辺のパトロールを依頼している。
 小さくなれる大きな象に山くらいに大きくなってもらってパトロールをしてもらっているので警備は万全だ。

 我がゴーレム再生工場にぬかりなし!

 我はタッタラタッタと駆け足で周辺の警備に勤しんだ。

 ◇ ◆ ◇

 今日も朝から訓練だ。

 勇者達や悪魔の兵士達、そして訓練に参加し始めた他の悪魔の兵士達が、我の前に集まり始めた。

 最初の頃は自信にあふれ、おごっていた顔をしていた勇者達。
 今では、気を引き締めた顔になっている。

 うむ。成長している。

 悪魔の兵士達も、最初の頃のがんばりますと言っていたやる気だけが全面に出ていた表情とは変わってきた。目が据わって、気を引き締めた顔になっている。

 うむ。彼らも成長している。

 我が皆、がんばろうではないかと思っていると、突然、黒い玉が飛んできた。
 これは前に大魔王のところに行くと言って姿を消した、あの黒い玉だろうか?

 我が黒い玉を眺めていると、黒い玉がいきなりしゃべり出す。

「あたしは感動した!」

 我は首を傾げる。
 何か、感動することがあっただろうか?
 あっ、もしかして我がゴーレム再生工場の取り組みに感動したのかもしれぬ。

 やはり、わかる者にはわかるのだなと思いつつ頷いていると、さらに黒い玉は言葉を続けた。

「あなたこそ、魔王にふさわしい!
 あたしはあなたを魔王と認めるよ!」

 ?

 ??

 何を言っているのだろうか?
 我は後ろを振り返る。
 誰もいない。

「あなたのことだ。
 銀色のゴーレム様!」

 我のことか。
 我は自分を指さして黒い玉に確認を取る。

「そう、あなたのことだよ!」

 黒い玉は我の頭上をぐるぐると飛んで回る。

「あたしは悪魔王が魔王の座を返上した後から、ずっとあなたの事を陰から見ていたの!」

 ……。
 …………!?
 なんだと!?
 我をずっと見ていただと。

 我に気付かれずに見ているとは、こやつ、ただの黒い玉ではないのか!?

{ログ:【悟りしモノ】の効果により、動揺状態が解消しました}

 落ち着け、我。
 まずは相手の話を聞こうではないか。

「最初は、こんな小さい銀色の人形に恐れを抱くなんて、悪魔王の軟弱さを嘆いたわ」

 黒い玉はぷるぷると震えている。

「そもそも悪魔王も魔王のくせに秩序ある統治をする魔王らしくない魔王だったの!
 私はもっと魔王らしく、圧倒的な力で弱者を踏みにじり、恐怖で支配してほしかった!
 それなのに、悪魔王は、悪魔王は、実に理性的で秩序ある統治をしていたわ!
 だって、そうでしょう! そこのザコい勇者達だって、殺せばいいのに、痛めつけた後は改心するだろうって軟禁していただけなのよ!」

 黒い玉は、そうとう不満が溜まっていたのか、早口で愚痴を喚き散らしている。

 我は、黒い玉から雑魚呼ばわりされた勇者達をちらりと見た。
 勇者達はうなだれている。

「わがまま言い放題の勇者達なんてプチってやっちゃえばいいのに!
 そんな時にゴーレム様がやってきた!」

 ようやく我の事に話が進むようだ。

「戦闘狂の不死の元魔王を軽くあしらい、勇者達、悪魔の兵士達に絶望を与え続け、死ぬよりも死んだ方がいいという苦しみを与えるゴーレム様!」

 ?
 ??

 絶望を与え続け?
 苦しみを与える?
 何のこと?

「勇者達の心のよりどころである聖剣などの聖なる武器を壊しては直し、壊しては直し、心を折った」

 えっ、直してあげてただけだよ。
 そうだよね、って勇者達を見ると、なんということだろう。
 黒い玉の言葉に頷いている。

「悪魔の兵士達にも情け容赦なく痛めつけた。夜中に脱走としようとした兵士達を逃がさなかった抜け目のなさ。五日間、死なない程度に痛めつけ、その後二日は戦闘狂の不死の元魔王を相手にいたぶる様子を見せつけて逃げ出すことの無意味さを心に刻みつけ続けた」

 !?
 休みをあげてただけだよね。
 夜中も警備に行こうとしていたのを変わってあげただけなのに!
 黒い玉の言っていることはちがうよね、って悪魔の兵士達を見ると、悪魔の兵士達もまた黒い玉の言葉に頷いている。

 マジか。
 黒い玉の言っていることは当たっているのか。

「あたしは思った。
 これこそあたしが求めていた魔王のあるべき姿だって」

 ちょっと、もう、黒い玉は黙って!
 我は黒い玉を掴もうと手を伸ばす。
 さっと黒い玉は我の手を避けた。

 もう一度掴もうと手を伸ばしながらジャンプする。
 ビュンと黒い玉は今度も我の手を避けた。

「触らないで!
 ゴーレム様は強すぎるから触られるとあたしたち黒い玉は消滅してしまうの。
 他の黒い玉からの情報で銀色のゴーレムに気を付けろって連絡がきているわ」

 やっぱりこの黒い玉は、今日初めてしゃべったんだ。
 どうりで一人称がちがうと思ってた。

「圧倒的な力で弱者を踏みにじり、恐怖で支配する。
 これこそあたしが求めていた魔王のあるべき姿。
 今のゴーレム様がやっていることこそ、まさに理想の魔王の姿なの!」

 黒い玉が空中でジグザグと飛び回る。
 その言葉から、黒い玉がうっきうきで飛び回っているのがよくわかる。
 まさか、この黒い玉が言っていることが他の者から見たら事実なのだろうか。

 我は勇者達と悪魔の兵士達を見る。
 皆、よく言ってくれたとばかりに黒い玉の言葉に頷いている。

 !!

{ログ:【悟りしモノ】の効果により、衝撃状態が解消しました}

 な、なんということだ。
 いつのまにかゴーレム再生工場はブラックな職場になっていたのか。
 ブラックな職場はダメだ。我はホワイトな職場を目指していたのに。

「ゴーレム様なら魔王じゃなくて、魔王の中の魔王、大魔王にもなれると思うの!
 だから、これから今の大魔王のところに行って、大魔王の座を奪ってしまいましょう!
 そうしましょう!」

 ぐるぐると黒い玉は8の字を描くように空を飛ぶ。

 いや、我は別に魔王じゃないし、大魔王にも興味はないし。
 ないないと我は手を顔の前で振った。

{ログ:魔王の証からの盲信が100を超えました}
{ログ:勇者達からの恐怖が100を超えました}
{ログ:悪魔の兵士からの服従意思が50を超えました}
{ログ:複数の規定値を超えましたので、真の魔王として登録されました}
{称号【真の魔王】を得ました}
{称号【真の魔王】を得たことにより、スキル【支配】を得ました}

 えっ。
 我はおそるおそるステータスを開いてみる。

ーー
 名前 ゴーレム
 種族 メタルゴーレム
 Lv 51

 ステータス 
 最大HP:578
 最大MP:551
 攻撃力:255(+0)
 防御力:255(+0)
 素早さ:213
 頭 脳:209
 運  :255

 スキル
 【ステータス固定】【復元】【覚醒】【悪あがき】【非接触】【バカになる】【暴れる】【水泳】【遠吠え】【通訳】【祈り】【ラインライト】【大虐殺】【姿隠し】【ブレス】【バリア】【救済】【角生】【下克上】【光合成】【精霊のささやき】【悪魔化】【万物崩壊】【残忍】【発毛】【脱毛】【壁】【支配】

 称号
 【変わらぬモノ】【悟りしモノ】【諦めぬモノ】【愛でるモノ】【煽りしモノ】【海竜のオヤブン】【人魚のトモダチ】【犬のトモダチ】【声のトモダチ】【死者のトモダチ】【屠りしモノ】【精霊のトモダチ】【竜のトモダチ】【女王の守護者】【信仰されしモノ】【鬼のトモダチ】【王殺し】【植物のトモダチ】【エルフのトモダチ】【天使殺し】【神殺し】【紂せしモノ】【救いしモノ】【磨きしモノ】【壁を作るモノ】【真の魔王】
ーー

 お、おぅ。
 魔王という称号がついてる。
 そして、支配というスキルも増えた。

 なんてこった。
 
 黒い玉から、ゆらゆらと黒い光が我に降り注いでくる。

「あたしは宣言する。
 ここに新たなる魔王、ゴーレム様が誕生された!」

 黒い玉が厳かに言葉を告げた。

 悪魔の兵士達がその場にざっと跪く。
 勇者達も武器を置いて跪いた。

「ゴーレムが魔王……。倒せるわけがない。勇者だからって無理がある」
「あぁ、このような試練があるなんて」
「勇者、お前達さえよければ、この都市で生きていかないか?」
「えっ? だが、オレ達は悪魔達を殺している……」
「魔界は弱肉強食だ。
 勇者達もオレ達も一緒に困難に立ち向かったじゃないか。
 オレ達はもう仲間だろ」
「あ、ああ、ありがとう」

 勇者達が泣き出した。
 悪魔の兵士達が笑いながら、勇者達を受け入れている。

 一緒に困難に立ち向かった……。
 ゴーレム再生工場の事だよね?

 我がゴーレム再生工場はここに閉鎖された。

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