卵に帰る

ぬすっと物語13 卵に帰る

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 おいらは卵に向かって走り出した。

 廊下の両側には灯りがついている。
 もう夕暮れをすぎて、夜が近づいているみたいだ。

 人がもうほとんどいない廊下をおいらはタッタッタと走って卵へと向かった。

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 おいらの卵が置かれている広間に辿りついた。

 うん。やっぱりもうほとんど人がいない。
 ちゃりんちゃりんとお金が投げられることもない。

 おいらは周囲をぐるりと見回し、卵に近づいた。

 おいらの卵が置かれた台の下で、もう一度周囲を見回す。

 む、部屋の中に一人だけいる。

 何してるんだろ?

 おいらはよじよじと卵の置かれた台に登った。
 部屋の中に一人だけいるのは女の人だ。

 長い箒を持って、さっさと床を掃いている。
 掃除をしているみたいだ。

 おいらは卵の影からじーっと掃除をしている女の人を見る。

 女の人は、この大きな広間を一人で掃除をしているようだ。
 鼻歌を口ずさみながら楽しそうに掃除をしている。

 おいらは卵の周りをくるくる周りながら、女の人をじーっと観察した。

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 しばらくおいらが見ていると一通り掃除が終わったのか、女の人は箒を置いた。

 ふぅ。ようやく帰るかな?

 おいらも卵に入ろう。

 すると箒の側に今度はこちらに近づいてくる。
 手には白い布を持っている。

 まだ何かする気なのかな。

 おいらは卵の影に隠れ、じっと女の人を見る。

 すると女の人はおいらの卵を白い布で拭きはじめた。
 女の人はやさしく丁寧においらの卵を拭いている。
 おいらは卵を挟んで女の人の反対側に位置取るように動いた。

 女の人の手が近づいてきたら、さっと身体をのけぞらしながら、掃除の邪魔をしないように卵のそばでくるくると動く。

 おいらにはわかった。

 この女の人、いい人だ!

 掃除が終わったのか女の人が両手を握りしめて卵に向かって話しかけてきた。

「聖なる獣様、今日も平和に過ごすことができました。明日も平和な一日になりますように」

 女の人の気持ちがおいらの中に流れ込んでくる。
 この女の人は優しいいい人。

 女の人は卵に一礼すると掃除道具を持って広間を出ようとする。

「聖なる獣の卵が、空の卵になったと言われていますけど、聖なる獣様はいますよね」

 誰に聞くともなく、女の人が呟いて卵を見つめてくる。

 おいらはここにいるよと思いながら、女の人に向かって頷いた。

 おいらは、女の人に手を振って、卵の扉を開けて卵の中に入った。

「え? えぇええええ!?」

 卵の外から大きな声が聞こえてくる。

 うるさい。

 おいらは卵の中の床にぺたりと座る。
 初めて卵の外に出たけど、卵の外はいろいろなことにあふれてる。

 おいらは、おなかの袋から赤い果物を取り出した。

 がぶりとかぶりつく。

 しゃりしゃりしゃり。
 ごくん。

 がぶり。
 しゃりしゃりしゃり。
 ごくん。

 うん。甘い。赤い果物は美味しい!

 おいらは今日のことをノートに書いて寝た。

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