お金を払う

ぬすっと物語37 帰る

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 おいらはいったんナイフとフォークを置いて、ぐいっと涙をぬぐう。

 そしてもう一度フォークとナイフを手に持った。

 リンゴのパイを切る。
 おいらは切ったリンゴのパイをぱくぱくぱくと食べる。
 もぐもぐもぐと口の中でリンゴのパイを噛みしめる。
 おいしい。リンゴはそれだけで美味しいのに。
 料理をすることでこんなに美味しくなるなんて。

 フォークとナイフを使って小さく切っては、パクパクパクと食べる。
 もぐもぐもぐとよく味わう。

 やっぱりおいしい。

 おいらのリンゴ。
 リンゴのパイだから、こんなに美味しいのかな。

 ちがう。
 オークステーキもおいしかった。

 おいらはリンゴのパイを食べながら思う。
 料理だ。料理がすごいんだ。
 料理はなんてすごいんだ。

 おいらは尊敬の目で太い女の人を見る。
 この太い女の人はすごい。

 おいしいリンゴのパイはとうとう最後の一口になる。
 おいらは最後の一口もぱくりと食べた。

 リンゴのパイは最後までおいしい!

 おいらはあっというまにリンゴのパイを食べ終わってしまった。
 
「もうない」

 空になったお皿を見つめて呟く。
 おいらは少し悲しくなった。
 でも、大丈夫。お金もある。リンゴもまた取れる。

 うん。また作ってもらえばいいだけだ。
 リンゴは今はないけれど、明日また取ってきて、リンゴのパイを作ってもらおう。

 おいらは太い女の人に重ねていた銀色のお金をずずずいと押し出した。

「お金、払う」

「あ、ああ。代金かい。でも、これじゃもらいすぎだよ」

 女の人が銀色のお金を一枚だけ残しておいらの方に返してきた。

 おいらは首を横に振る。
 おいらはお金をもう一度太い女の人の方に押し出した。

「リンゴのパイ。おいしかった」

 おいらはテーブルの上に立ち上がり、太い女の人にぺこりとお辞儀をする。

「また来る!」

 おいらは、ぴょんとテーブルの上から飛び降りる。

「えっ、ちょっと待って! どこに行くの?」

 おいらはタッタッタと走り出しながら答える。

「卵に帰る」

 おいらは姿を見えなくしながら、卵に向かって駆け出した。

 ◆ ◇ ◆

 おいらはリンゴのパイの美味しさに感動した余韻に浸りながらタッタッタと建物の中を駆けて行く。

 むむ。
 なんかいつもどんよりしている部屋の方が少し騒がしい。

 おいらはちょっと気になって、卵に帰る前に寄り道してみることにした。

 タッタッタと廊下の端を両手を広げたまま走る。
 おいらはるんるんとした気分のままどんよりしている部屋の方に来た。

 ……来なきゃ良かったかも。

 なんかすごく雰囲気が重々しい。
 おいらはそーっと歩く。

 何かあったのかな。
 おいらは騒がしい部屋をこっそりと覗いた。

 なんか、あの女の人、泣いてるね。
 うーん、あっちの男の人も泣いてるね。

 おいらはいそいそと部屋の中に入り、窓際までさっと駆け抜けた。
 窓の縁までよっこらせと上がる。

 部屋の中にあるベッドには小さい子供やちょっと大きい子供がそれぞれ寝ていた。
 それぞれのベッドの付近には泣いてる人がいる。
 泣いていない人もいるけれど、顔つきが厳しい。

「なんで、なんでこの子が……」
「こんなに同時に意識不明になるなんておかしいでしょ」

 ?
 おいらは首を傾げる。
 よくわからない。

 あっ!?

 こんな時はゴーレムアイだ!
 ゴーレムアイは全てを見通す!

 おいらはゴーレムアイを使って見る。

<鑑定結果:ルメ(人族・女性・6歳)>
<状態:意識不明・生命力低下・瀕死>
<魔神器の呪いにより無垢なる生命力を吸収された>
<死亡することにより魂まで魔神器に吸収される>

 死にそうだよ。
 なんとかなるの?
 おいらはゴーレムアイでさらにベッドに横たわっている子供を見た。

<鑑定結果:ランキ(人族・男性・5歳)>
<状態:意識不明・生命力低下・瀕死>
<魔神器の呪いにより無垢なる生命力を吸収された>
<死亡することにより魂まで魔神器に吸収される>

<鑑定結果:ポポム(獣人族・女性・3歳)>
<状態:意識不明・生命力低下・瀕死>
<魔神器の呪いにより無垢なる生命力を吸収された>
<死亡することにより魂まで魔神器に吸収される>

 みんな一緒の状態だ。
 瀕死ってあるから、このままじゃみんな死にそうってことだ。

 厳しい顔つきの男の人が窓の方に来た。
 おいらの姿は見えてないよね。

 厳しい顔つきのまま、男の人が膝をついて両手を組んで頭を下げた。

「ああ、聖なる獣様、どうか、どうか、この子達をお救いください」

 !!?
 この人おいらの事が見えてるの!?
 聖なる獣っておいらのことだよね。

 おいらが驚いていると、別の男の人が跪いている人の横に来た。

「祈っても無理だ! この街一番の医者に診せても原因さえわからなかったんだぞ」
「うるさい! 何もできず、このまま死にそうな子を見ているだけなんてできない。今のオレには祈るしかできないんだ!」

 部屋の中の人たちが2人の男のやりとりを見ている。

「聖なる獣様なんていないんだ! 祈ったってどうしようもない!」
「やめてこんな時に騒がしくしないで」

 泣いている女の人が立ち上がって2人の男を注意した。

 でも、聖なる獣っておいらでしょ?
 おいらはここにいるよ。

 泣いている女の人が驚いたように目を見開く。
 そして、窓際によってくると最初に跪いた男の人の横に両膝をついて座って手を組んでこちらを見上げてきた。

「聖なる獣様、どうか、この子達をお救いください。
 私にできることならばなんでも致します」

 女の人は涙を流しながら頭を下げた。
 女の人の想いと男の人の想いがおいらに流れ込んで来る。

 聖なる獣なんていないと叫んだ男もその場に跪いて祈るように頭を下げている。
 気がつけば部屋の中にいた大人がみんなこちらに向かって頭を下げていた。

 おいらは身体の内から、ぽかぽかと暖かい光がわき上がってくる。

 おいらは両手を広げて、元気なーれとベッドに寝ている子供達に向かって温かい光を飛ばす。

 きらきらとした光がベッドに寝ている子供達に降り注ぎ、子供達が光に包まれた。

 おいらはゴーレムアイを発動して子供の様子を見てみる。

<鑑定結果:ルメ(人族・女性・6歳)>
<状態:睡眠・健康>
<ゴーレムから引き継いだ祈りにより魔神器の呪いが解除された>
<いつもより元気になった>

<鑑定結果:ランキ(人族・男性・5歳)>
<状態:睡眠・健康>
<ゴーレムから引き継いだ祈りにより魔神器の呪いが解除された>
<いつもより元気になった>

<鑑定結果:ポポム(獣人族・女性・3歳)>
<状態:睡眠・健康>
<ゴーレムから引き継いだ祈りにより魔神器の呪いが解除された>
<いつもより元気になった>

 むっふー!
 おいらは鼻から息を吐き出す。

「元気になった!」

 おいらは思わず両手を上げて叫ぶ。
 声を出しちゃった。
 おそるおそる後ろを向くと窓においらの姿が映っていた。

 !?
 おいらの姿が見えてる!?

 おいらは姿を見えないようにして、窓から外に飛び出した。

 おいらはそのまま姿が見えないように卵までこっそりと帰った。

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