鬼と狐と

000 鬼と狐と

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 夜空に薄い雲がたなびき、月が青白く輝いている。

 都の北に位置する霊峰の頂にある岩の上で鬼が胡座をかいていた。
 鬼は半眼で東を睨んでいる。

 鬼は、ふぅと大きく息を吐いた。

「クソババアが何しに来やがった?」

 鬼が後ろに声をかけると1匹の狐が岩陰から姿を現す。月の光に照らされた毛は銀色に輝いていた。狐は鬼の悪態など耳に入っていないかの如く、口の端を少し上げて笑う。

「くふふ、おぬし近々どこかに行くのか?」

 鬼は視線を狐に向けた。
 狐は音もなく鬼の横に座っている。

「おや、何も言わぬとはまこと、どこかに行くのかえ?」

「予知か?」

 鬼の声に、狐は声もなく笑った。
 狐は鬼の前を尾を揺らしながらゆっくりと横切る。

「東に行ったら、おぬしの先が見えなくなったでな。滅ぶやもしれんぞ」

 狐の声に鬼も笑った。
 待ち望んでいた時が来るのを喜ぶかのように。

「おもしれぇ」

 鬼は立ち上がり、右の拳を左手に打ち付けた。衝撃が鬼を中心に駆け抜ける。

「てめえが言うなら、東にようやくオレの敵となり得るヤツが現れたんだろう」

 狐はあきれたような目を鬼に向けた。

「滅ぶかもしれぬのに行くのかえ? 戦い好きとはいえ阿呆よな」

「はっ、てめえの予知はよく当たるが絶対じゃない。オレを倒せるほどの武者が現れたのかもしれんなら行って確かめるしかないだろ」

 鬼はカカッと笑うと岩の上から大きく跳んで、夜の山の中へと消えて行った。
 狐は鬼が消えた夜の山をしばし眺めたあと、大きく口を開け、あくびをした。

「ふぅむ。この戦乱の世が治まる時が近いのかもしれんな。まぁ、妾には関係なきことよ」

 月が雲に隠れ、またその姿を現した時には、狐の姿もまた消えていた。

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